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Der grüne Heinrich 緑のハインリヒ

スイス・ドイツ映画 (1993)

アンドレス・シュミット(Andreas Schmid)が勇気を持って、主人公ハインリヒの少年時代を演じた文芸大作。1854-55年に発表され、1879-80年に全面改訂された同名原作の映画化。原作者ゴットフリート・ケラーの自伝的な小説で、幼少の頃 実務的建築家の父を亡くし、清貧の中で母に育てられ、成人して画家を目指すハインリヒの心の遍歴を描くドイツ語で書かれた19世の代表的な文学作品。ハインリヒは、愛したアンナを結核で失い、同じく愛したユーディトをアメリカへの移住で失う。ミュンヘンに出たハインリヒは、親友のリュスと決闘して死なせ、その決闘の原因となったもう一人の親友エリクソンも去ってしまう。孤独の中に残されたハインリヒは、浪費癖もあり学資が底をつき志望を断念して故郷に向かい、ハインリヒのために借金を重ねて極貧のうちにあった母の死に目にぎりぎり間に合う。決して明るい小説ではない。しかし、映画はそれを大幅に変えている。アンナはハインリヒの少年時代からの仲良しだし、旅の芸人という役に転じたユーディトとも会っている。少年時代の13のシーンのうち、次で詳しく分析するように10のシーンは全くの創作である。大人になってからも、アンナの死は同じだが、ユーディトは芸人のままだし、リュスと決闘して死ぬのはリュスでなくハインリヒ本人。だから、借金もなければ、母の死もない。なお、DVDの画質は、正規の1種類しかない製品なのに、かなり劣悪である。

映画版『緑のハインリヒ』の少年時代は、①2人で出かけた狩猟中に父が心臓発作で死亡する、②父の緑の服を母がハインリヒ用に仕立て直す、③食事の席で主の祈りを唱えることをハインリヒが拒否する、④葬儀でいとこのアンナと親しくなる、⑤学校でアンナを庇って折檻を受ける、⑥アンナが食べ物を差し入れにきてキスする、⑦アンナのスケッチを母に見つかり説教される、⑧河原でアンナをスケッチする、⑨画家のレーマーに弟子入りする、⑩ドイツから来た劇団の公演に潜り込み尾長猿の役をさせられる、⑪役に落ちた子がハインリヒの服を持ち去ってしまい女優の部屋で泊まる、⑫尾長猿の衣装のまま帰宅する途中で猟師に狙われ 着ぐるみを脱いで全裸で家に向かう、⑬母に保護され優しく体を洗われる、⑭学校での授業中アンナが健康上の理由で田舎に引っ越すのを知る、という内容になっている。原作では、①2章で、父はハインリヒが5歳の時に過労死したとあるので、このシーンは全くの創作。②原作と同じ。これが「緑のハインリヒ」と呼ばれる所以なので、変えようがない。③4章に8歳頃の話として食前の祈祷時にハインリヒが突然口を閉ざす場面があるが、状況が異なるため、映画のような台詞は当然ない。④父はもっと前に死んでいるので葬儀はない。アンナが登場するのは、ハインリヒが大人になってから。よって全くの創作。⑤9章でハインリヒが入学した貧民学校での教室風景の記載があり、映画の教室とよく似ている。主要なテーマであるアンナを庇うシーンは全くの創作。⑥アンナの登場シーンはすべて創作。⑦アンナの登場シーンはすべて創作。⑧アンナに関係したシーンはすべて創作。⑨ハインリヒが画家を志すのは大人になってからなので、全くの創作。しかも、最初に弟子入りするのは画家ハーバーザートでレーマーではない。⑩11章に同じような場面がある。ただし、女優の名前は明らかにされず、原作でハインリヒが大人になって愛するユーディトとは同名だが別人物。⑪夜遅いので泊めてもらう場面は同じだが、悪友がハインリヒの服を持ち去ることはない。⑫従って、原作では、普通に服を着て帰宅するので、子役にとって恥辱的な全裸での帰宅シーンは全くの創作。⑬従って、その次の洗浄シーンも全くの創作。⑭最後のシーンも、アンナに関わることなので、全くの創作。こうして見てくると、果たしてこの映画は、『緑のハインリヒ』の映画化と言って良いのだろうかと強い疑問が沸いてくる。むしろ、『緑のハインリヒ』という小説にinspireされて作られた別バージョンと考えるべきであろう。そういう観点に立つと、なぜハインリヒをこうも裸にしたいのか、監督と脚本家の人間性に疑問を投じたくなる。オール・ロケで撮影された町の通りを裸で走るシーンは、撮影を見ている住民の前で、全裸で、しかもヨーロッパ特有の舗石の上を裸足で走るという苛酷な撮影だ。テイクは1回だけとは限らないので、よく耐えることができたと感心する。局部を母に海綿スポンジで洗われるシーンも、クローズアップは不要だと思うし、演じていても恥ずかしかったと思う。

アンドレス・シュミットは、ドイツ人には珍しく髪も目も黒いが、結構端正な顔立ちの少年で、映画出演時の年齢は不明だが12歳前後だと思われる。大人になってからのハインリヒがワン・パターン的なのに対し、表情も豊かだが、何といっても大変なシーンを乗り越えた勇気には脱帽する。


あらすじ

映画の最初16分は、大人になってからのハインリヒ。時代は19世紀。場所は謝肉祭の仮装で賑わうミュンヘン。集まっているのはかなり背徳的なグループだ。親友のリュスが、自身の婚約者を侮辱的に扱っているのを見たハインリヒは、義憤からリュスに決闘を申し込む。それを受諾したリュスが、「お前は死を知っているのか?」と問いかけ、ハインリヒが「死? 物心付いた時から知っている」と言い(写真)、少年時代の回想シーンに入っていく。
  

ハインリヒと父が、見通しのいい林の中で狩猟をしている。ウサギを見つけた父が、「いたぞ!」と言い、ハインリヒが「やっちゃえ」と応える。すぐに銃を撃つ父(1枚目の写真)。どうやら当たらなかったようだが、ハインリヒは「パンパン」と楽しそうに舞う。ところが、しばらくして父の姿が見えないことに気付く。「パパ」と何度も呼ぶ。だんだん心配になり、声が大きくなる。「パパ!」(2枚目の写真)。そして、ハインリヒは地面に倒れている父を発見する。すごく苦しそうだ。さっきは木の幹の裏に隠れていて脅かされたので、今度もその手かと、「変なゲーム、やめてよ!」と声をかけるが(3枚目の写真)、ゲームではなく本当の心臓発作だった。そして、父はハインリヒの目の前で死んでしまう。
  
  
  

ハインリヒは、町まで叔父を呼びに行き、木製の手押し車に父の遺体を乗せて家まで一緒に押していく(1枚目の写真)。最愛の父をこんな形で失い、ハインリヒは悲しみにくれている。家の前に手押し車を止めると、叔父は家のドアをノックする。出てくる母のことを思うと、ハインリヒの表情も複雑だ(2枚目の写真)。何事かと思い出て来た母は、夫が死んで横たわっているのを見て叫び声を上げる。動揺するハインリヒを叔父が抱きしめる。母は、夫の頬に自分の頬をつけて、嘆き悲しむ(3枚目の写真)。
  
  
  

母は、夫の着ていた深緑の上着を洋裁ハサミで切り始める。それを見たハインリヒは、「パパを切り刻まないで」と必死に止める(1枚目の写真)。母は、「ハインヒリ、今日からはあなたが家長です。だから、お父様の服を着なさい」と言い、どんどん服を解体していく。それをハインリヒは辛そうに見ている(2枚目の写真)。夜になって、ベッドで一人で寝ていたハインリヒは寂しくなり、枕を持って母のベッドに潜り込む。「ベッドに戻りなさい」と言われると、「僕が家長だって言ったじゃない。だから父さんのベッドで寝るんだ」(3枚目の写真)と抗弁するが、「二度とは言いませんよ。ベッドに戻りなさい」の冷たい声に、すごすごと引き返す。母は、一人で泣いていたいのだ。翌朝、朝食のテーブルで、ハインリヒがスープをスプーンでつついていると、母が、「神様にお祈りしていないでしょ。一緒に唱えなさい」と言って、「天にまします我らの父よ…」と言い始める。ハインリヒは少し考え、母の言ったことを無視し、「父さんは死んだ、神様も死んだ」と言い返す(4枚目の写真)。ハインリヒの精一杯の反抗だ。
  
  
  
  

そして、葬儀の日。教会へ向かう馬車。父の入った棺の後を 親戚が粛々と歩いている(1枚目の写真)。棺が馬車から降ろされると、ハインリヒは、棺が置いてあった近くの柱に「パパ寂しいよ」とすがり付く。叔父がやって来て(2枚目の写真)、嫌がるハンイリヒの手を離させ、「おいで、お母さんが来て欲しがってるぞ」と優しく連れて行く。しかし、教会の通路に入った所で、ハインリヒは再び「嫌だ」と言って、母の横から抜け出し馬車に向かう。叔父と、叔父の娘のアンナが後を負う。叔父は「ハインリヒ、お前は お父さんに別れを告げなきゃいかん」と諭すが、ハインリヒは「虫に食べられちゃう」と言って泣く。叔父は仕方なく、「アンナ、ここに、いとこと一緒にいなさい」と言って、馬車の御者席に2人を座らせ、自分は教会に戻る。2人は同じ年。最初はかしこまっていたが、馬が大きな屁をすると、思わず笑ってしまう(3枚目の写真)。2人はこれから生涯の友(恋人)となる運命にある。
  
  
  

外では雪が舞うような寒い日、貧民学校の教室〔原作によると、全学年1つの教室で授業を受けている〕では、みんながまちまちなことをしている。教師がチーズを切っては食べていることから、一種のランチ・タイムなのかもしれない。19世紀の学校なので、現代の視点では推測できないが… 部屋は、生徒の人数の割に広く、天井は高い(1枚目の写真)。教壇の最後部左の一段と高い棚の上に生徒が一人正座させられている(矢印)。ここは懲罰台。悪いことした生徒が座る場所だ。両手を膝に置いたまま真っ直ぐな姿勢で何時間も正座させるのは、やられる方も大変だ。そのうちに、ハインリヒが縦笛を吹き始める。目線の先から、隣の列にいるアンナを想っての演奏だ(2・3枚目の写真)。
  
  
  

ハインリヒが1音間違えると、ちゃんと聴いていた教師から「ハインリヒ!」と注意される。「吹けません。手が、かじかんじゃって」。すると、教師は、「そうか。もし、凍え死ぬのが嫌だったら、踊ったらどうだ」と言い、正座していた男の子を引きずり降ろし、全員を立たせ、「メヌエット」と命じ、自らオルガンを弾き始める。真っ先に、腕を組んで踊り始めるハインリヒとアンナ。アンナは、ハインリヒにあげようと、教壇の角に置いてあった花瓶から、スノードロップを1本盗んでしまう(1枚目の写真)。そして、口にくわえながら踊り、最後にハインリヒに手渡す(2枚目の写真)。そんな行為が目ざとい教師に見つからないはずがない。教師は直ちに演奏を中断すると、「何たることだ。この恥知らず」「アンナ、すぐここに来い」と怒鳴る。豹変ぶりが凄まじい。恐る恐る近寄るアンナ。教師は棒を上げてアンナの手を取る(3枚目の写真)。その時、ハインリヒが「僕がやりました」と声を上げる(4枚目の写真)。そして、教師の前に進み出ると、「僕がスノードロップをアンナにあげました」とはっきり述べる。教師は「何のつもりだ?」「ロマンチストかヒーローか?」と言い、手のひらを出させ、棒でしたたか叩く。「盗みは罪だ。お前は悔い改め、神に許しを請うのだ」。
  
  
  
  

ハインリヒは直ちに、懲罰台の上で正座を命じられる。半分抗議の意味を込めてスノードロップを口にくわえるハインリヒ。それを見て生徒達は大喜び。教師は怒って罰が重くなってしまう。授業が終わり、暖房の切れた教室で、一晩中、食事抜きのまま、後手を縛られたまま正座を続けるハインリヒ。現代なら、体罰の限度を完全に越えているが、19世紀なら普通なのだろう。その時、ガラスの割れる音がして、アンナが窓越しに姿を見せる(2枚目の写真)。アンナは、割れたガラスの隙間から手を入れ、窓の錠を外し、教室に侵入する。ハインリヒが「音を立てるな。捕まっちゃうぞ」と注意する。アンナは、「分かってるわ」と言いつつ戸棚の上に登ると、「食べるもの、持ってきたの」と包みを解く(3枚目の写真)。そして、ハインリヒの手を自由にしてやる。お腹が空いているのでむさぼり食べ、骨が詰まって咳き込むハインリヒ。アンナは手で骨を取り、「今日は、私の命を助けてくれでしょ。だから、今度は私の番よ」。「てことは、一生一緒にいなくちゃね」。「そうよ、結婚するんだもん」。「結婚したら、キスするんだよ。前にキスしたことある?」。ううん、と首を振るアンナ。「僕もだよ」。そして、ファースト・キスをする2人。「どうだった?」。「お魚の味がしたわ」。
  
  
  
  

ハインリヒが、自室で『創世記』を読んでいる。「…人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである」(2.24)。そして、その前の「主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り…」(2.22)の部分を思い出しながら、「あばら骨か… 彼女は、僕のあばら骨で出来てるんだ」と呟く。そこに母が入って来る。「聖書を読んでるのを、隠す必要はないのよ。いいことなの、嬉しいわ。読むことで、分別が生まれるでしょ」。しかし、ハインリヒが机の上に置いてあった紙を、こっそり聖書に挟むのを見た母は、その紙を取り上げる(1枚目の写真)。それは、アンナを描いたスケッチだった。母は、急に態度を硬化させ、「いったいどうすればいいの? 叔父様もアンナのことが心配だと言ってらしたわ。お父様がこれをご覧にならなくて幸いね」と叱る。うつむいて母の言葉に耐えるハインリヒに、母は「顔を上げて!」と強要する。そして、顔を上げたハインリヒに(2枚目の写真)、「お父様が亡くなってから、私一人なのよ。あなたの靴や 食卓の食事はどこから出てくると思ってるの?」と生活の苦しさを強調する。
  
  

それでも、次のシーンでは、ハインリヒが川のほとりでアンナを座らせてスケッチしている(1枚目の写真)。じっとしていられなくなったアンナが、「鼻を掻いてもいい?」と訊く。「好きなようにしていいよ」。そこで、アンナは立ち上がると、ハインリヒの横に座ってスケッチを覗く(2枚目の写真)。「私を描いてるじゃないのね?」と批判がましく訊く。「いいや、君だよ。君は僕のあばら骨なんだ」。「あなたのあばら骨?」。「いいかい、聖書にはこう書いてあるんだ。『主なる神は人を深く眠らせ、眠った時に、そのあばら骨の一つを取って、その所を肉でふさがれた。主なる神は、人から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた』」(3枚目の写真)。「そうか、私はあなたのあばら骨なのね」。「僕、ベッドで一晩かかってあばら骨を数えたんだ」。「見せてよ」。アンナがハインリヒの胸をむき出しにし、上から「1、2、3、4」と数えていく。「動かないで」。「くすぐったいよ」。「5、6、7。これ短いわ」(4枚目の写真)。「だけど、それも あばら骨だよ」。
  
  
  
  

ハインリヒが、画家レーマーのアトリエを訪れている。「絵を教えて欲しいだと? なぜ、私を選んだ?」。「お弟子さんが いないからです」(1枚目の写真)。少し失望して、「そうなのか」と言うと、画家はハインリヒが手に持っていたスケッチをひったくって見てみる。「アンナだと? 恋をするには、ちと若すぎないか?」。「僕の あばら骨の1つなんです」。画家は、「絵描きになりたいのなら、人生を知ることだ。そして、人生を知るには、死を知らねばならん。闇を知らねば、光を描くことはできんのだ、お若いの。私は闇も知ってるし、人生も知っている」。それに対し、ハインリヒは「僕もです」と答える。「君がか? そうか? そんなに小さいのに… じゃあ、人生で最悪の出来事を話してみたまえ」。「母が壊れるのを見ました」(2枚目の写真)。「お母さんが死んだのか?」。「いいえ、死んだのは父です」。これで事情を察した画家は、「君がそこで見たものを描くんだ」と言って、紙の前に連れて行く。そして、黒いクレパスを渡すと、「見せてみろ」と言いながら、ハインリヒを手を握って紙を真っ黒に塗りつぶしていく。「そうだ、それでいい。第一歩を踏み出せた」。「何歩あるんですか?」。「できるだけ多くだ」と画家は笑う(3枚目の写真)。
  
  
  

ハインリヒ、友達、アンナの3人が旅の一座の「ファウスト」の公演会場に向かって走って行く。アンナが「ハインリヒ、話があるの」と呼びかけても、「悪魔を見てやるんだ」と大乗り気で言うだけ。「でも、話さなくちゃいけないの」と言っても耳を貸してくれない。3人は裏口からこっそり忍び込み、カーテンに開いた穴から交互に劇を覗き見している(1枚目の写真)。もっと近くで悪魔が見たくなり、ハインリヒを先頭にカーテンの裏から舞台の脇へと出て行く(2枚目の写真)。そして、当然の成り行きとして、効果音の係に見つかってしまい、陰に連れて行かれて、「お前たち 何のつもりだ?」と叱られる。そして、「猿が2匹か?」と意外な言葉も。「ごめんなさい。悪魔が見たかった」と謝るハインリヒに、係は「悪魔が見たいのか。じゃあ、一緒に来い」と言う。アンナは最後にもう一度、「ハインリヒ、話すことがあるの。大事なことよ、お願い」と頼むが(3枚目の写真)、ハインリヒは、「行かないと。すぐ戻るよ、約束する」と言って、友達と一緒に楽屋に入って行く(4枚目の写真)。アンナは帰りを待とうと物陰に行くが、その間も何度か咳いている。典型的な結核の咳だ。
  
  
  
  

「お前たちには、小猿になってもらう」と言った係は、2人に尾長猿の着ぐるみを投げて寄こす。「服を脱ぐんだ」。「ズボンも?」。「何もかもだ」(1枚目の写真)。それを見ながら女優のユーディトが笑っている。友達が、「入らないよ。もっと大きなの ないの?」と言う。「それしかないんだ。服を着て、出てけ」。ふてくされる友達。一方、ハインリヒは女優がニコニコして見ている前で、服を脱ぎ捨てる(2枚目の写真)。そこに悪魔役が入って来て、「飛び回ってみろ」と言う。素っ裸でそんな恥ずかしいことはできないので、ハインリヒは係の後ろに隠れる。「何やっとるんだ?」。ユーディトが「悪魔だと思ってるのよ」と助け舟を出してくれる。その間に、着ぐるみに足を突っ込むハインリヒ。「ここに来い。何て名前だ」。「ハインリヒ・レーです」。「俺の周りで、小猿みたいに飛び回ってみろ」と言われ、躊躇するハインリヒ。しかし、「言うことを聞かない子供が悪魔にどうされるか知ってるか?」と脅され、着ぐるみがずり落ちないよう引っ張りながら、叫びながら跳ね回る。「いいぞ、ハインリヒ、立派な小猿だ」。その時、服を着終わった友達が、脱いであったハインリヒの服全部と靴をこっそり取り上げ、「本物の猿がどんなもんか教えてやる」と呟くと、そのまま出て行ってしまう(3枚目の写真)。飛び終わって後ろを向いて着地したハインリヒ。前隠してお尻隠さずの状態だ(4枚目の写真)。悪い友達は、ハインリヒを待っているアンナの前を通り過ぎて、町へ帰ってしまった。
  
  
  
  

劇が終った後、係は、小猿姿のハインリヒに「お駄賃」と言ってお金を渡して去って行く。その時、楽屋から悲鳴に近い困惑した声が聞こえてきた。悪魔役の男が、ユーディトを抱いて、胸に噛みつこうとしている(1枚目の写真)。それを見たハインリヒは(2枚目の写真)、急いで舞台に戻ると、舞台の下に置いてあったドラムを思い切り叩き始める。何事かと寄ってくる団員。ハインリヒは「あいつが、女の人を殺してる。急いで、見たんだ!」と叫ぶ(3枚目の写真)。「何のつもりだ? 家に帰れ。俺達疲れてるんだ」。「殺されちゃうよ!」この騒ぎで、ユーディトも解放されて出て来た。団員が「あの子、お前さんが殺されてると思って、助けを呼んでたぞ」と言うと、ユーディトは優しく「来なさい」とハインリヒを舞台に引っ張り上げる。「あなたなの? 今まで、誰も心配してくれなかったわ」と言って楽屋に連れて行く。
  
  
  

ユーディトは衝立の後ろで衣装を脱ぎ始める。一方、ハインリヒは着替えようと服を捜すがどこにもない。寝間着に着替えたユーディトに、「僕の服、盗まれちゃった」と訴える。「着る物がなくちゃ、家に帰れないわね。よければ、一晩泊まっていったら?」。鏡で見ながら化粧を落としているユーディトを見て、急におっぱいにしゃぶりつくハインリヒ(1枚目の写真)。「何するの? もう赤ちゃんじゃないのよ」「でも、まだ男でもないから、もうちょっと待つのね」。こう優しく言い含めると、「じゃあ寝ましょ、小さなお猿さん」と言って、自分の足元に横にならせる。顔のすぐ横にユーディトの足がある。「よければ、ずっと一緒でもいいのよ。役者になれるわよ。そして、いつか2人でアメリカに行くの」。それを聞いて微笑むハインリヒ(2枚目の写真)。しかし、疲れているのですぐに寝てしまう。翌日、顔に朝日が当たり、ハインリヒは目が覚める(3枚目の写真)。そして、アンナのことを完全に忘れていたことを思い出す。ユーディトはハインリヒの足を抱いて眠っている。起こさないよう、そっと足を引き抜き、ベッドに掛ける。猿の着ぐるみの下は裸だということが良く分かる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

服がないので、猿の着ぐるみのまま家路に向かったハインリヒ(1枚目の写真)。そこに立ちはだかったのは、朝の狩猟に来ていたハンターだった。動物だと思い、何度も鉄砲で狙い撃ちされる(2枚目の写真)。ハインリヒは、猿のマスクを外し、「人間だよ! 撃たないで!」と叫ぶ(3枚目の写真)。それでも射撃は止まない。ススキの原の上に、着ぐるみが宙を舞う。ハインリヒは裸になって走り始めた。
  
  
  

最も衝撃的なシーン。母の住む家は町の中にあるので、ハインリヒは全裸のまま、通行人のある中を、やけくそになってひたすら家に向かって走る(1・2枚目の写真)。昨日の悪い親友が、それを見て笑っている(3枚目の写真)。ハインリヒは、捕まえようとする男から逃れ(4枚目の写真)、洗濯場に逃げ込み、何とか身を隠すものを盗もうとするが、無情にも追い払われてしまう(5枚目の写真)。そして、追走する子供達にからかわれながら何とか家に辿り着き、母にすがり付く。あざける連中から庇うように、優しく自分の服で裸体を隠してやる母(6枚目の写真)。
  
  
  
  
  
  

そして、2つ目の衝撃的なシーン。ハインリヒを部屋に連れ帰った母は、そのまま木のたらいの中に立たせ、海綿に温かい湯を含ませて全身を洗ってやる(1・2枚目の写真)。肩から湯を掛けられる時のハインリヒの至福の表情がとてもいい(3枚目の写真)。洗い終わると、母に包まれるように抱きしめられる(4枚目の写真)。今までの厳しい母とは全く違っている。わが子の受けた残酷な辱めを、そっと癒そうとする心配りが見て取れる。
  
  
  
  

恐らく、その日の学校で、教師が授業の前に、「まず、知らせておくことがある」と言い、「アンナは、信心深い子だったが、もうここにはいない。本人の健康を考えて、ご両親が田舎に引っ越すことにされた」と告げる。それを聞いて驚くと同時に悔やむハインリヒ(1枚目の写真)。その時、窓の外から馬車の音がする。ハインリヒは教師が止めるのを無視して窓まで行くと、荷物を山と積んだ馬車の端っこに座っているアンナが見えた(2枚目の写真)。ガラス窓を叩いて、大声で「アンナ!」と叫ぶハインリヒ。その声は、馬の蹄が舗石を歩く大きな音にかき消されて、アンナには聞こえなかった(3枚目の写真)。生涯の友との突然で悲しい別れだ。
  
  
  

ここで回想シーンは終り、再び大人になってからのハインリヒが主役となる。そして、映画は約1時間続く。その間、①ハインリヒが画家レーマーの反対を押し切り暇を告げる、②母を描いたスケッチを残し一人アンナのいる叔父の元に向かう、③叔父の家でのアンナとの再会、④その夜の歓迎パーティ、⑤花の咲き乱れる野原で2人が戯れる、⑥叔父と遠乗りに出かけユーディトと偶然出会う、⑦その夜ユーディトを訪れ激しく愛し合う、⑧アンナとアルプスまで遠乗りに出かけ愛し合おうとしてアンナが喀血する、⑨病床のアンナ、⑩アンナの葬儀、⑪葬儀後の会食で叔父が泥酔、⑫魂の救いを求めてユーディトの元へ、と続き、最後に、リュスとの決闘のシーン。剣さばきはリュスが圧倒的に上手い。リュスは遊び半分に相手をし、最後に助け起こそうとして剣がハインリヒを刺し貫いてしまう。原作と真逆の結果だ。従って映画はここで終わりとなる。
  

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